今日は、最近読み終わった『習近平はいったい何を考えているのか 新・中国の大問題』の感想を書きたいと思います。
2016年10月刊行のこの新書は、なんといっても著者が「売り」でしょう。
著者の丹羽宇一郎氏
現日本中国友好協会会長。伊藤忠商事の元社長・会長にして、2010年に民間出身で初の中国大使に就任し、約2年間勤めた人物です。2014年に刊行された同じくPHP新書『中国の大問題』は14万部を超えるベストセラーだそう。
中国を題材にした本は、その著者の立ち位置や考え方によって、全くその捉え方や考察、結論が変わってきます。そのため、中国第一人者ともいえる著者の中国論は押さえておきたいという読者が多いのでしょう。
確かに、今回の本も、政治的、経済的、文化的と複合的に中国を捉えています。なかでも習近平に十数回会ったことがあるという著者が語る習近平像、分析には説得力があり、この本の最大の魅力になっているように思います。
習近平以外にも、著者のように、中国の政治家に実際にここまでたくさん会ってきた日本人は指で数えるほどしかいないんじゃないかと思います。
もちろん中国政治の学者なども分析はできるでしょうが、著者のように実際に会わないと感じ取れない空気もあります。特に、中国人は実際に会って距離を縮めること、人脈を重視しているので、著者だからこそ聞けた話がたくさんあるのでしょう。
著者は大使時代、中国に33ある一級行政区のうち、27を訪問し、その行政区の共産党委員会書記にあってきたそうです。その中から今後の中国の中央を担う人材も多く出てくるのでしょうから、著者の人脈は、日本人にとっての宝になるのではないかと思います。
人脈、人との付き合いがモノをいうことを痛感
本当に、中国人が人脈を最大限に使ってチャンスをつかもうとしているのは、市民レベルでも強く感じます。
私が上海に行ったときに出会った中国人のうち何人かは、びっくりするくらい熱心に今でも私に連絡をくれます。日本のことを聞いてきたり、ビザをとるのを手伝ってくれないかという要望だったり…袖振り合うも他生の縁。人口が莫大な分、人より突出するためには、その縁もチャンスにしていこうという考え方なのだと思います。
また、中国の印象として、規則は厳格すぎるほど(現実に即してないと思われるほど)厳格に定めておき、他人にはそれを守るよう突き放すし、身内や知り合いなどには便宜をはかる、という場面が多いように思います。だから、損をしないためにも、いろんな人と仲良くしておいた方が良い!というのを中国にいるとき何度も痛感しました。
例えば、大学の寮の警備員とか。知り合いの韓国人の女の子がたまにチップをやって便宜をはかってもらっているのを見たときは、カルチャーショックを受けました。しかし、それで生活はとっても便利になるのです、実際。
話がそれました。
この本の中で一番斬新で面白く読めたのは序章です。
序章 2049年、中国独裁体制は崩壊する
簡単にいますと「中国建国百周年の2049年に、中国は世界一の大国となっているかもしれない。しかし、そのために不可欠なのは民主化だろう。習近平は自らの任期の終わり(2022年)には、その方向性を示すのではないか。」という内容が書かれています。
大胆な予想です。確かに、「中国の夢」って、習近平はずっと言っていますが、具体的にはどうなろうとしているのか。その手掛かりになります。「民主化」を望んでいるなんて、現時点では信じられないような話ですが…共産党の一党独裁と民主化をどうバランスとっていくのか、つっこんだ考察がもっと聞きたいです。
第一章 変転する世界秩序
アメリカをはじめとする世界と、中国はこれからどう付き合っていくのか。
本当に、今年はいろんなことがありました。イギリスのEU離脱、フィリピンの過激な大統領、アメリカのトランプ大統領の当選…
概して、世界各国のナショナリズムが台頭して来つつあるように感じ、不安です。
これらのファクターが今後、中国とどう絡んでいくのか。日本はどんな影響を受けるのか。日本の外交政策ですら、国民自身にもあまり予想がつきませんし…
っていうのを、考える一助となることが書かれている章です。
第二章 習近平とは何者か
文化大革命によって陝西省の農村へ下放され、農民と同じ生活をしていた少年が、中国のトップに、しかも毛沢東に例えられるほど圧倒的な権力を収めるほどの存在になるまでの軌跡が簡単に紹介されています。
絶対無理でしょうが、海千山千のうごめく中国の政治界で、彼がどのようにトップに登りつめたのかのドキュメンタリーを、いつかアメリカかどっかが映画化してくれないかな。知りたいなぁ。
共産党の独裁をゆるぎないものとするため、習近平は反腐敗運動を進め、領土問題などで強硬な対外姿勢をとります。国内では行動力のある強いリーダーとして結構評価されているように思います。
それにしても、習近平も、プーチンも、そしてトランプも…これからの世界の大国のトップはみんな強烈な個性を持っているように見えますね…日本の安倍さんは大丈夫だろうか。
そういえば、去年の留学中のこと。パナマ文書に習近平の親戚の名前があったことを日本のニュースで見たとき、これを中国人に話したら私捕まったりするのかしらとドキドキしたことを思い出しますw
反腐敗運動を容赦なく進めている習近平だけに、自身に関わる金銭問題は致命的です。でも、中国国内では一切このニュースは流れず、あまり大きな混乱はなかったように思います。ネット上でVPNを使いこなし、海外のニュースが見られる若者は知っていたのでしょうが、このことを未だに知らない中国人も多くいるのでしょう。このことについても、この本の中で触れられています。
あと、この章ではたくさんの中国政治家の名前が出てくるのですが、よくニュースで登場する、外交部長の王毅についても。
日本に対して、威圧的にかなり辛辣ことを言っているイメージなので、この人日本のこと嫌いなのかな、って単純にも思っていたのですが、この人元駐日大使で日本語に堪能らしいです。意外!強硬な態度は表向きの姿で、実は親日だったりしたら面白いけどなぁ。
長くなるので、あとの章ごとの感想は省略します(笑)
最後にこの本を読んでの感想、結論!
「日中関係は日米関係に規定される」というのが、この著者の主張です。日本はアメリカとも中国ともうまくやっていかねばなりません。
ここで、国レベルの政治の難しい話は置いておいて、国民の感情レベルの話で、ちょっと極論になってしまうかもしれないのですが…
日本人って、アメリカに対して憤りを感じた時には、「日本は戦争に負けたんだからしょうがない。」って思ったり「アメリカは世界一の大国だから。」ってどこか諦められるというか。下から目線なんだと思うのです。
しかし、中国に対しては複雑です。確かに戦争には負けたけれど、日本は中国に負けたという意識はあまりありません。また、経済規模は最近抜かれましたが、長い間、中国に先んじて発展してきた、上を行ってきたという自負があります。そのため、どこか日本人は中国人に対して上から目線になってしまうのだと思います。この状態で、中国がいろいろな側面で台頭してくると摩擦が生まれます。また、これは韓国との関係でも言えることですが、隣人だからこそ許せないというのもあって、日本と中国の関係は、難しいのでしょう。
しかし、著者も危惧していることですが、日本はこれから自分たちの存在感の低下に向き合っていかねばなりません。もちろんできるだけ食い止めたいですが、人口が減少しているので仕方のないことです。
日本はどう生き残っていくべきか。客観的に捉えなければ、痛くても現実を直視しなくては、と思います。日本のメディアは本当に日本のことを考えるならば、日本素晴らしい!とかいう番組ばっかり作ってないで、幻想からそろそろ冷めなくては。もっと公平な目で世界が日本をどう見ているのかを伝えてほしいです。