久しぶりに中国に関する本を読みました!
今回は、2017年4月発行『現代中国経営者列伝』という新書です。
この星海社という出版社の新書は、とがった視点で、私のような浅~い新書読者にも読みやすい内容の本が多いです。
この新書も、中国経済というテーマに対し、分かりやすい切り口です。
「1980年代以降の中国経済急成長の時代を代表する起業家8人の人物伝」をまとめて掲載してあります。
起業家8人は写真入りで一人一人紹介、座右の銘とかバーンて書いてあって、ゲームの登場人物のようです。さすが若者向けの新書!
充実のラインナップ
以下、この本の章タイトルを抜き出してみます。
1、「下海」から世界のPCメーカーへ 柳傳志(レノボ)
2、日本企業を駆逐した最強の中国家電メーカー 張瑞敏(ハイアール)
3、ケンカ商法暴れ旅、13億人の胃袋をつかむ中国飲食品メーカー 宗慶後(ワハハ)
4、米国が恐れる異色のイノベーション企業 任正非(ファーウェイ)
5、不動産からサッカー、映画まで!爆買い大富豪の正体とは 王健林(ワンダ・グループ)
6、世界一カオスなECは”安心”から生まれた 馬雲(アリババ)
7、世界中のコンテンツが集まる中国動画戦国時代 古永鏘(ヨーク)
8、ハードウェア業界の”無印良品”ってなんだ? 雷軍(シャオミ)
中国ニュースによく登場する会社名ばかりですね。
一人あたり20ページくらいで短くまとめてあるのですが、ここに選ばれたのは、やっぱりすごく個性的な起業家たちです。確かにそれぞれ波乱万丈で物語性のある人生を送っています。
著者は「一代でのしあがった創業者たちの成功物語」の書籍ジャンルの大ファンらしく、中国にごろごろしている魅力的な人物を日本の読者に伝えたいと常々思ってきたらしいです。
うまいこと波に乗るかどうか
確かに、それぞれ魅力的な人物たちばかりでした。しかし私は、彼らのうちの何人かは必ずしも天才とか超人ではないと感じました。
もちろん、彼らは非凡なアイディアをもとに、並々ならぬ努力をしたのですが、
それ以上に「うまいこと波に乗ったな」という感じもしました。
まぁ、どんな天才でもすべて見通して成功までの設計図を書くことは誰にもできないほど、中国経済は激動の時代だったので無理はありません。
巨大なこの国が進む潮流を見極められるかが、やっぱりめちゃくちゃ重要みたいです。
特に、第5章で出てくる王健林は、アメリカの経済雑誌フォーブスによると、2017年の中国資産ランキング堂々第一位の、中国イチの成功者です。(ちなみに、中国のサイトですが、ランキングはこちらで見れます。南方財富網 2017/5/10)
しかし、この本を読む限り、彼の経営手腕がものすごく変わっていたかというとそうでもなくて、なにか世界でも新しい新商品を生み出したとかでも無さそうです。
彼は不動産王。早くから中国の土地をめちゃめちゃ買い付けて、その価値がいま爆上がりして、資産がものすごいことになっているようです。
確かに、先見の明はあったのかもしれません。それに、自分の地元以外の土地で不動産業をするためには、その土地の省政府と相当なコネクションを作らねばならないようです。彼はそのコネづくりが天才的にうまかったのかもしれません。今では政府の主要人物(習近平の姉まで)すべてとの関係性が指摘されているようです。
例えば彼なんかは、スティーブジョブズのように個人的な能力がずば抜けた起業家というよりは、中国経済の偏りが生み出した偶然の産物という気もちょっとします。うまいことやったな、と思わざるを得ないというか。
政府のえげつなさを再確認
1980年代からの市場経済路線において、経済発展を進めるため様々な政策をとり、経済界の荒波を生み出し続けたのは、言うまでもなく中国政府です。
この本を読んで改めて感じたのは、そのような大きな話だけでなく、ミクロレベルでも中国政府の経済への介入の仕方がえげつないな、ということです。
どういうことかというと…例えば配車アプリの話のなかで、
「中国ではタクシー業界保護のために厳しい規制が課せられているので、本来ならば日本と同じくカーシェアリングなど許されないはずだ」(P232)という記述があり、驚きました。
私が上海に留学していた頃の経験として、「滴滴出行」などのタクシー配車アプリがないと、雨の日などはタクシーを捕まえることができませんでした。本当にみんな使っていたのです。それが厳密には違法だったなんて!
配車アプリ業界は捕まるどころか隆盛を極めていました。今では米国のウーバーを退け、「滴滴出行」が中国カーシェアリング業界の覇者となったそうです。
すると「戦いの行く末を見極めた中国政府は配車アプリ事業に対する規制を発動」したそうです…。それによって、使用する車の条件や補助金の禁止が決められ、後発参入のハードルが上がったとのこと。
なんと政府の思うがまま…って感じです。
法律は厳しく、細かく張り巡らしておく。それが全部守られるとは、作ったほうも思っていない。そして必要なときだけ、その法律を持ち出して規制する。このようにして政府が経済界に介入!
というのが、中国政府のやり方なんじゃないかと考察しています。
日本は穏やかなプール、中国は荒波の大洋
もちろん、この本に出てくる起業家たちは、ただ中国政府と仲が良かったためにのし上がったわけではありません。
ただ、政府当局と仲良くしておくことは、中国企業にとっては成功するための必要条件のようです。
彼らは、中国の変遷に揉まれ、政府との関係を良好に保つため苦心しながら、それらを柔軟に乗り越え時には利用しながら、中国経済という大海を泳いでいます。
それに比べると日本の起業家は穏やかなプールにいるようなものじゃないか、まぁ泳げなくてもいつでも立ち止まれるし、みたいな環境なんじゃないか、と思ってしまいます。
そういえばこないだ中国のテレビでやってたんですが、横琴島というマカオのすぐ隣にある中国大陸側の島、今ここの開発に国が力を入れてるらしいです。
マカオ~大陸間の検閲・越境を24時間可能にしたり、マカオ大学を横琴島に誘致したり、起業家のための施設を造ったりしていました。こんだけ政府が開発を後押ししているところはこれから発展するんでしょうね。
土地価格とかこれから爆上がりするんだろうな。もうしてるか。
…ここまでの感想で、すでに長くしまったので、続きは【後半編】に書きたいと思います!