【本の感想】中国4.0 暴発する中華帝国 (エドワード・ルトワック著、文春新書)

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中国の対外政策の変遷がわかる本

新宿紀伊国屋書店の、上半期で売れた新書ランキングの棚でこの本を見つけました。

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刊行は2016年3月にもかかわらず、今でもamazonの中国関連書籍を検索すると上位に出てきます。

『文春新書 中国(チャイナ)4.0』は、中国に関する本のなかでは、最近で一番売れた本ではないかと推測します。

著者は、日本人ではなく、アメリカ人の戦略家です。

日本人が政治的に中国を語るとなると、どうしても思想の偏りが出てしまいます。「この本は左寄り、その著者は右の思想」となるとどうしても読者は限定されてしまいます。

そんななか、アメリカで実績のある戦略家の、最新の中国論ということで、この本は偏った思想にとらわれず、フラットにいまの中国を捉えたい多くの日本人の関心を集めたのではないかと思います。

内容はそこまで複雑なものではなく、

「中国4.0」に行きつくまでの中国の対外政策の変遷が、大きな軸として語られます。

 

時期 特徴 結果
中国1.0 2000年頃~ 平和的台頭 政治・経済の両面において、非常に大きく成功
中国2.0 2008年頃~ 対外強硬路線 周辺国に敵対心を抱かせた。著者によると「完全に間違った戦略」
中国3.0 2014年頃~ 選択的攻撃 抵抗の無いところには攻撃的に出て、抵抗があれば止める
中国4.0 今後

(表は本文、裏オビからブログ筆者が作成)

著者は、中国が今後中国4.0のフェーズでとるべき政策として、南シナ海の領土を主張する九段線理論を撤回すること、空母の建造を中止することを挙げています。

しかし、著者自身、中国がそのような政策をとることは絶対にないだろうと述べています。

中国人にとって何よりも大切なメンツ(面子)を傷つけることになるし、現在、中国政府はフラットな視線で正しく外国を捉えて、対外政策を行うことができないからです。

 

中国人が誇りを持ちはじめたきっかけ

私は戦略論(ルトワックは「戦略の逆説的論理」というものを唱えたことで有名だそうです。その内容もこの本で述べられています)にはあまり興味がないというか…、私には少し難しすぎるし、マクロすぎる視点だと思っています。

実際に中国に滞在した私から見て、特に興味深かったというか、思いをめぐらせられた部分は、この本の核心とは少し違う部分だったかもしれません。

例えば、中国が「九段線理論」を出して、周辺国と領土についてモメ始めたのは、2008年のリーマンショックがきっかけだったというのは、へぇー!と思いました。

古い歴史ではなく、最近のことなのですが、2008年、2009年頃にはあまり中国に関心を払っていなかった私は、その変化に全く気付いていませんでした。

アメリカをはじめ、世界各国が不況に苦しむなか、唯一あまり影響を受けず経済の好調を保った中国は「このままいけば、やがて中国はアメリカに迫る大国になれる」という希望を、現実のものとして強くもち始めたということでした。

確かに多くの中国人と話していると、かつての経済大国日本はもはや衰退し、これからは中国の時代だ、という意識を多くの中国人が持っているようでした。

中国人であることに誇りをもっており、これから中国がさらなる大国になることに期待と確信をもっていました。

 

領土問題と自国への愛

そして、領土問題に関しては、中国人とあまり正面きって議論をしたことはありませんが、中国で見かけたテレビ番組や聞こえてきた人々の会話などから、領土に関しては、あまり他国に譲歩する気持ちはなさそうというのが、私が肌で感じた感覚です。

上海では特に、外国人が多く、日本人に友好的な人もたくさんいます。日本の文化や人が大好きと言ってくれた人も多くいましたが、やはりそのことと、尖閣諸島に関する問題は別のようです。

また、私の友達(いたって普通の中国人だと思います)が、ウィーチャット(中国のLINE)の投稿欄にて、九段線の写真を挙げて、これを侵略するものは許さない、のようなコメントを挙げていたのも見かけました。

中国の若い人は、インターネットで外国のこともよく知っていますし、自分の自国である中国が抱える問題の多さや中国人のマナーの無さなどを嘆いて、卑下したことを言ったりします。

しかし、根本は自国に対して、深い愛をもっており、自国の発展、そしていずれは世界のすべての国が認めるような大国となることを心から願っているようでした。

また、世界に多く散らばる華人ですが、中国以外の国で富を蓄え自身が発展することに全力を尽くしつつも、心の中でいつも祖国の中国を忘れず、祖国の発展をみな願っているように感じます。

特に生まれたときから日本にいる日本人は、そのような自国に対する深い愛を、日ごろから深く意識することはないでしょう。

そのへんの国に対する意識は、当然ですが、中国人と日本人で少し違っているのを感じました。国の発展の道のりのどこにいるか、というのによっても変わるのかもしれません。

とにかく、中国の人は私たちは豊かになってきている、私たちの影響力は世界のなかで大きくなりつつあるという自信を深めてきているように感じました。

 

中国人の若者は一党独裁をどう捉えているか

この本のなかでは、政府の意思決定過程が密室内で行われ、習近平が突然どのような政策をとってくるか未知数な中国は、「規模が大きく独裁的で不安定な国家」だと断じられています。

確かに、中国にいるとほんとうにインターネットで調べられない単語があるし(天安門事件、蒋介石についてネットで調べてもヒットしない、というのを実際に体験しました)、

海外では大きく報じられる、文化大革命50周年も、習近平の親戚がタックスヘイブンに資産を大量にもっていたことも中国では全く触れられていませんでした。

こういう情報の統制を見ると、中国はほんとうに独裁国家なんだなという感じがしました。

 

しかし、最近の中国人はそういう情報統制をも乗り越えている人がいます。

海外のドラマやコンテンツを見たいばかりに、パソコンやスマホにVPNを入れて海外のサーバーを使っている若者が、特に上海にはたくさんいます。そのような人のなかには海外の報道も見ている人が、増えてきているでしょう。

また、上海の若者は、自国の政治制度について、割とクールに客観的に捉えていました。

ある人は、「学生のうちから共産党の党員になると、将来の就職のときに役に立つ、だから優秀なひとは申込みをしている」と言っていました。

就職活動のときの武器のひとつとしての共産党というのは、面白い捉え方です。思想的に共産党にほんとうに傾倒している人は、少なくとも上海の若者にはかなり少ないと思いました。

またある人は、「共産党の一党独裁には問題も多いけど、それがプラスに働くこともある、オリンピックの遂行とか」と言っていました。

特に、オリンピックの開催を控え、連日右往左往する東京の行政を見ると、意思決定に時間がかかりすぎるし、意味のない煩雑な手続きが多すぎるので、それもそうかもしれないと思いました。

 

少し本の内容から離れたことも書いてしまいました。

今回取り上げた『中国(チャイナ)4.0 暴発する中華帝国』(エドワード・ルトワック著、文春新書)、

内容がすごく詰まって充実しているとは言いがたいですが、だからこそさらっとすぐに読めますし、全体的には現在の中国を捉えるのに、読んでおいて損はない本だと思います。

 

 

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